感情や愛情といった、人間の精神的なものを形にしてこれほど具体的に表現した作品は世界のほかのどの地でも見られないことと思います。カジュラーホーのエロティックなイメージはこれらの人間の内部の感情の表現です。すべてのファサード壁、カジュラーホーのウィンドウ、柱および天井は、架空・歴史上の物語や図案を彫刻にしたもので埋め尽くされています。
1960年代までその存在が忘れ去られ、脚光を浴びることもなかったこのカジュラーホーの街は現在、タージマハルの次に訪れる観光客の多い観光名所となっています。カジュラーホーはインド中央部の森林や草原が多いマディヤ=プラデシュ州にある街です。
Khajuraho や’Khajur-vahika’ (なつめ椰子の木の産みの親という意味)、古代には’Khajjurpura’として知られたこの街は、カジュールと呼ばれる黄金のなつめ椰子の木が多い事からも、なつめ椰子の街という事もできるでしょう。 1838年、イギリスの軍事技師であったT S Burt大尉によって発見されました。
カジュラーホーの寺院群は950年~1050年という、約100年間ほどの間に次々と建造されました。当初建造された、全部で85あった寺院のうち、22の寺院が今でも現存しているのを見る事ができます。タージマハルが「愛の象徴」として崇められるのであるならば、カジュラーホーにあるこれらの寺院群はスピリチュアルで自然な愛の表現を彫刻に美しくしたためたものの象徴であるといえます。
カジュラーホー寺院群にまつわる伝説古代王朝に関するものの多くは、それが正式に書物として記録されていなかったが故に、ミステリーというヴェールに包まれていることが往々にしてあります。
特にインドの古代王朝時代ともなると、伝説と神話が歴史の事実と織り合わされて、それが現在まで伝わっているということが多々あるのです。
古代王朝がカジュラーホー寺院群という、彼らの宗教観と実際の人間的感覚が矛盾して存在するような彫刻芸術遺産を残したとき、伝説がよりカラフルでインパクトのある光彩を放って歴史を紡いだ証拠となって現在に存在することとなったのです。
Prithviraj RasoのMahoba-khandを記した中世の叙事詩作家、チャンドバルダイによると、Hemvatiは、Kahi(ベナラス)王朝に仕える僧侶Hemrajの美しい娘でした。
ある夏の晩のこと、彼女が蓮の花が沢山浮かぶ泉わき出る池で沐浴をしていると、そのあまりの美しさに月の神様が一目ぼれをしてしまったのです。
月の神様は自分を人間の形に模して地上へ降り立ち、彼女と関係をもってしまったのです。
不幸にも父親のない子を身ごもって寡婦となってしまったHemvatiは、家族の名誉を傷つけ、自分の人生を台無しにしてしまった神をののしりました。自分の愚行を後悔した月の神は、自分の罪滅ぼしを込め、彼女が勇敢な息子の母親になることを約束しました。
「息子をHajjurpuraに連れて行きなさい。彼は立派な王となり、いくつもの湖や庭園に囲まれた数多くの寺院を建造することでしょう。彼はまた、貴方に宿った宿業をYagya(宗教儀式)によって洗い清めてくれるでしょう。」と。月の神の指示に従い、Hemvatiは家を出て小さな村で男の子を出産したのです。
子供の頃のチャンドラヴァルマンは、彼の父親と同じくきらきらと光り、勇敢で力持ちでした。彼が16歳になるまでに、トラやライオンを素手で殺してしまえるほどでした。
息子の偉業に喜んだhemvatiは月の神に鉄を黄金に変えることのできる試金石を息子に与えるよう祈願し、息子をカジュラーホーの王にしたのです。
チャンドラヴァルマンは数々の素晴らしい勝利をあげ、Kalinjarに要塞を建設しました。
彼の母親の願いに応えるようにして、王はカジュラーホーに美しい湖や庭園に囲まれた、85もの豪華件欄な寺院を次々と建造し、そこで宗教儀式を行なう事で、母親に宿った宿業を洗い清めたのです。
カジュラーホー寺院群―石にまつわる不思議カジュラーホー寺院群は大きく3つのグループに分けられます:西群カジュラーホー寺院群の中でも最大であり、シヴァ神に捧げられたKandariya Mahadevは、中央インド建築様式の典型的な形をもっています。この寺院の近くには、全ての寺院群コンプレックスの中で唯一現在でも毎日信者達が礼拝にやってきて、宗教儀式が行なわれているというMatangeshwara寺院があります。ラクシュマン寺院は西群の中で最も造りがよく、4つの社が併設されています。
Devi Jagdamba寺院は、そのエロティックな彫刻の装飾によってカジュラーホーで最も話題にされるイメージをもつ寺院で、ミトゥナ像という、人々の感情に訴えかけるようになまめかしいカップルの彫刻像が有名です。
Vishvanath寺院とNandi寺院には、シヴァ神とパルヴァティとの結婚の模様が描写されています。
Chaunsath Yogini寺院はカジュラーホー寺院群の現存する寺院群の中でも、最も古く建てられた寺院で、カーリー神に捧げられたものです。
東群ジャイナ教寺院群としても有名で、Parasnath、Adinath、Shantinagh、そしてGhantai といった寺院があり、ヒンドゥー教寺院で見られるような、エロティックな彫刻像は減り、精巧な彫刻が並びます。これらの寺院はジャイナ教の神に捧げられたもので、それぞれの寺院に各々の神を模った美しい彫刻が施されています。
東群にはVamana、Javari、そしてBrahma という3つのヒンドゥー教寺院もあります。Brahma寺院とHanuman寺院はみかげ石と砂岩で造られており、カジュラーホーの寺院群にある寺院のなかで最も古い寺院です。
南群ここには2つしか寺院がありません。ここにある寺院はしかも比較的歴史の浅いもので、カジュラーホーの王朝が東群や西群で次々と寺院建造をした時代よりも後、そういった建造のピークの後に建てられた寺院群だといわれています。
しかしながら、ここでも美しくエロティックな彫刻像を見る事ができますが、こちらの彫刻は石ではなく木の彫刻が多いのが特徴です。
Chaturbhuja: カジュラーホー村からはかなり離れたところに位置する、あまり目立たない寺院ですが、その中に3mもの高さを誇るヴィシュヌ神の彫像をみることができます。
カジュラーホー舞踊フェスティバル毎年春になると、カジュラーホーの象徴ともいえる石の彫像が生命を得たかのような活気あるお祭り、カジュラーホー舞踊フェスティバルが7日間開催されます。
ヒンドゥー寺院で生まれたといわれるインドの古典舞踊や音楽を称える文化行事で、歴史文化溢れる寺院を飾り立てて観光客と共に祝う、比較的近代的なお祭りです。
Bandhavgarh 国立公園以前はRewa州の一部だったこの地域は、その真ん中をVindhyaの山の尾根が走っていて、それをRewa州の統治者が狩猟を楽しむために設けた公園だったものが、1968年に国立公園として生まれ変わったもので、現在は105.4平方キロメートルの広さになっています。